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2023年10月 4日 (水)

ルーミー、突然の旅立ち

 

 10月1日、日曜なので、二人ともゆっくり9時に起きたのですが、書斎に入った妻が「アー!」と震えるような叫び声を上げました。私が書斎に飛んで入ってみると、ルーミーが、お気に入りの丸座布団に頭をのせ、目を開いたまま横向きに寝ています。揺すっても反応はないし、目もまったく動きません。「起きろ、ルーミー、起きろ!」と叫びながら心臓マッサージのようなことをしましたが、むろん効果はありません。どのくらいの時間か、二人でルーミーの名を大声で呼び続け、まだ温かい体を抱きしめ合いましたが、ついに、ついに、ルーミーは生き返ってくれませんでした。

 その日は茫然自失で、何も手につかず、食欲もなく、いつの間にか昼過ぎになっていました。とりあえず、腐敗せぬよう、ルーミーをビニール袋に包んで冷凍庫の空っぽの引き出しに入れました。ルーミーを可愛がってくれた長男にメールで知らせると、「そうか、、悲しいけど、仕方ないよ」という返事がすぐに来ました。もう17歳になろうとしているルーミーだったので、いつ死んでもおかしくなかったのです。

 妻は、ノートパソコンに入っているルーミーの大量の写真を整理していましたが、画像を見るたび毎に涙は止まりません(妻は三日間泣き続けました)。夕方、通夜のための食事とお酒を買いに二人で出かけました。帰って来たとき、ドアを開けても、ルーミーは走って迎えには来ません。私たちの姿を見て、嬉しくて爪とぎ板を夢中に引っ掻きもしません。灯の消えたような寂しさ。食事をしても味がなく、日本酒を飲んでも酔いません。眠れずに、二人でルーミーの話をしながら朝を迎えました。

 10月2日、月曜日、朝一番で市川市のクリーン•センターに電話して、ルーミーの遺体を引き取ってもらう手続きをしました。その日の午前中に引き取りに来るということでしたが、月曜なので忙しいのか、お昼ちょっと過ぎに冷凍車がやって来ました。「お迎えが来たよ」と外で待っていた妻の声がしたので、私は冷凍庫からルーミーを出して冷たくなった体を抱いて最後のお別れをしました。受け取りに来た職員の方の話では、今日か明日、焼かれて、2週間以内には慰霊碑に入るとのことでした。

 市川市の広報によると、クリーン•センターは「市が全国に誇れる市民サービス」で、実際、利用者の評判もよい。職員の対応も丁寧で心がこもっています。費用は持ち込みで2200円、引き取りに来てもらうと4400円で、焼かれるのを待って遺骨ももらえますが、私には耐えられないので、合同の慰霊碑に入れてもらうことにしました。市川大野にあるその犬猫慰霊碑では毎年10月に市川浦安獣医師会主催の慰霊祭があるそうです。「10月の末にでも、線香と花を持ってルーミーに会いに行こう」と妻に話しましたが、こんな会話だけでも目が潤んできます。

 ルーミーが運ばれて行った後で、妻は「連絡しとくね」と言って、ルーミーを貰った柏のボランティア施設にルーミーの死を報告するメールを出して、私たちの心尽くしの寄付金を添えました。この施設の人たちには感謝しかありません。保健所で殺処分を待っている子猫たちをまとめて引き取って、ミルクを飲ませ、病気を治療し、去勢•避妊の手術をして、混合ワクチンも打ち、トイレのしつけまでして、希望者に譲渡してくれるのです。1匹の猫にかかる費用は平均8万円くらいだそうですが、譲渡される側の負担は2万円ほどでした。

 実は、ここ1、2週間、どうもルーミーは死出の旅路の準備を周到にしていたように思えるのです。それまでは、私たち夫婦がいるところには必ず一緒にいて、書斎で話をしていても、まるで除け者にするなとでもいうように入り込んで来ます。それが最近は、ふと姿が見えないなと思っていると、ひとりで書斎に座っていたり、寝ていたりすることが多くなりました。灯の消えた書斎で、暗い中、身を正して座っているルーミーを見ると、何か不気味にも思えました。おそらく、死に場所は、ここしかないと決めたのでしょう。そして、私が深夜起きて、酒を飲みながら読書して、また4時頃隣室の布団に入ってから、妻が起きるまでのひとりきりの数時間で、みごと死におおせたのだと思います。

 兆候は確かにありました。硬いキャットフードが食べられなくなり、柔らかな缶詰ばかり食べていました。水を多く飲むようになり、吐く回数も増えました。目の焦点が時々定まっていないようにも見えました。以前から甘えん坊の猫でしたが、最近は、さらに甘えるようになっていました。

 しかし、ルーミーは私たちを騙そうとしていたのです。元気なふりをして、私たちを心配させないようにしていたのかも知れません。亡くなる前日、9月30日の土曜日、夕飯は妻が無印良品で買ってきた「鮭ハラスと舞茸の炊き込みご飯の素」だったのですが、炊き上がった御飯から鮭の匂いがするのか、ルーミーは勢いよくテーブルに飛び上がって来ました。「ルーミー!」と怒って、優しく抱いて下すのですが、それを三回繰り返したのには驚きました。さすがに疲れたのか、食後はぐったりとお気に入りのソファーに横になっていました。いつもに似ず、やや無表情な感じがしたので、妻も私も心配になってルーミーを撫でたりさすったりしました。私が猫のブラシで頭を梳いてやるとゴロゴロと喉を鳴らし始めました。ルーミーはブラッシングされるととても喜びます。「大好きだよ、ルーミー」と言って、妻がルーミーの頬にキスをすると、お返しにペロッとの鼻の頭を舐め返しました。妻はルーミーの衛生担当で、トイレの砂の取り替え、食事の準備、それに耳掃除、目や鼻や口の中の手入れ、爪切り、ノミ取りの薬などすべてやってくれました。なお、ルーミーは異常なほどきれい好きで、トイレの粗相など全くなく、気がつくとグルーミングに余念がないので、この歳でも手足の毛が光っていました。

 10月3日火曜日の明け方、夢うつつの私のところに、ルーミーからメールが届きました。

 件名:天国への途中駅から

 message:寿命だから先に行くよ! 幸せだったよ、ほんとうに。楽しかったよ、毎日が。長い間、二人ともどうもありがとう!

 P.S. さびしいけど、泣かないで。 ルーミーより

 いやいやルーミー、ありがとうと言いたいのは私たちだよ。ルーミーが我が家に来た時は、我が家は灯の消えたように暗かった。妻は身内の不幸で落ち込んでいたし、私は「憂愁書架」というブログ名とおり、閉塞したような日々を送っていた。もう10年も20年も笑ったことがなかったんだ。でも、ルーミーが来た日から、ルーミーの一挙手一投足を見るたびに笑みがこぼれてしまった。寝姿さえ笑いを誘うんだ。覚えているかな。私が風呂に入っているとウーウーという唸り声が聞こえて、浴室の扉が少し開いて、おもちゃが放り込まれてきた。それから頭で戸を押し開けてルーミーが入ってきて、おもちゃを咥えて浴槽のへりに跳び乗ったんだ。ある日、足が滑って、ルーミーが湯船の中へ落っこちた。私が助けようとすると、それよりも早く、水中ロケットのように自力でルーミーが湯船の中から飛び上がって来たんだ。タオルで拭いてやっていた時もその後も笑いが止まらなかったよ。妻も、むろん、明るく、幸せそうになった。みな、ルーミーのおかげだ。おや、もう天国駅も近いようだね。ありがとう、ルーミー! ほんとうにさようなら、、、。

 *リンクしている妻のブログにもルーミーの記事「完徳の猫」があります。

 

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まだ子供時代のルーミー。後ろのぬいぐるみはモモとチェブラーシカ

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これも子供時代。解像度が低いのが残念。

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猫用のトンネルでよく遊んだ。音のするオモチャが好きだった。

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泣き声は外まで響いた。

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いつもの寝姿だが腕がかわいい。

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高いところは本当に好き。

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しがみつくポーズは日常の風景。 

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妻とルーミー。ともに楽しいひととき。

 

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じっと見つめてくる。元気だった時。

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半目を開けて寝ている。

 

 

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スフィンクスの座り方は珍しい。 

 

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ライオンキングのポーズ。

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最近の写真だが、子供時代のルーミーを思い出す。

 

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子供の時、細い紐が好きで、食べてしまって吐き出したことも。

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袋に入るのも大好き。

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子供の時、ぬいぐるみも好き。

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一日の半分は寝ていた。

 

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妻の膝の上で。

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ソファーの上で。

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眠っている時はどこを触っても起きない。

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いつまでも思い出の中に、、、

 

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