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2018年7月22日 (日)

病み上がりのパリ(6)ルーアンへの旅

6月20日(水)

   8時53分発の列車に乗るため7時半頃ホテルを出ました。27番のバスでサン・ラザール駅へ。出勤時なのにバスも道も空いています。ところが、サン・ラザール駅へ着くと、列車の到着につれて、夥しい人がすごい勢いでプラットホームから出口に向けて押し寄せてきます。電光掲示板を見ると、私たちの列車は表示されてあったが、まだホームの番号は出ていません。待合室に行くと、たくさんのテーブルがあるのに、眠っている人がほとんど占領しています。妻が有料トイレ(0.8ユーロ)に行っている間、空いている椅子で水を飲んでいました。

   18番という番号が表示されて、急いでホームへ。二等はホームの一番端なのでかなり歩きます。指定された車両の指定された座席に行くと、大きなリュックを横の座席に置いたバックパッカーが占拠しています。その後ろの空いている席に座ると、どうも二等はどこに座ってもよいようです。座って発車を待っていると、髭を生やしてリュックを背負った青年が私たちの前に現れて、小声で何か言っています。聴き取れなかったが、どうも物乞いらしい。断ると、丁寧にお詫びの言葉らしきことを言って、向かいに座っていた母と子の方に行きました。何と母親らしき人は財布を開けて小銭を渡していました。快速なので1時間10分ノンストップでルーアンを目指します。車窓の風景は、よくある田園風景で、すぐ飽きてきました。しかし、ノルマンディーに入るとColombageという木組みの家がちらほら見えてきました。

   10時過ぎにルーアン に到着。古都ルーアンはパリの北西部ノルマンディー地方の首府で、ジャンヌ・ダルクが15世紀に火刑に処せられたことでも知られています。駅前に早速見えるのはジャンヌの幽閉されていた塔ですが、工事中で中には入れませんでした。
   まずルーアン美術館へ。地方の美術館としてはたいへん充実しているという評判ですが、さてどうでしょうか。ルーアンは2016年から主だった美術館・博物館がすべて無料になっています。建物はかなり古い、というより古色を帯びたまま放置された感があるのです。部屋部屋を進んで行くと、半分工事中の部屋があったり、額縁だけ展示されている部屋があったりします。所蔵作品は中世初期から現代まで、かなりの数ですが、特に中世末期からルネサンスにかけての宗教画に特徴があるようです。私たちは、かつて、クリニューやルーヴルで宗教絵画を見尽くした気持ちもあるので、その辺は足早に通り過ぎました。しかし、ルネサンスまでが異常に多いので、肝心の近代に来る前に観る人は疲れてしまいます。もっと精選して要領よく展示してくれたらと思います。
   案内の係員も地方の事務員という感じで洗練されていない。というより、パリが洗練されすぎているのでしょう。ルーヴルやオルセーやオランジュリーを観た後で上野の国立博物館や西洋美術館に入った時に感じるある種の淋しさがどうしてもそこには感じられます。いや、これはルーアンという町自体にも言い得ることで、ルーアンは古く、あまりに古いのですが、その古色は剥き出しで、煤は払われておらず、石畳は凸凹で歩きにくい。町中たくさんの教会に埋め尽くされていて、大聖堂の尖塔は何の目印にもなっていない、教会の尖塔があちこちにそびえ立っているからです。宗教的雰囲気が半ば土着的に残っていながら、そのすぐ近くにセックスショップやタトゥーの店が並んでいたりします。

  美術館を出たらお腹が空いてきました。駅に戻って、カフェ・ノルマンディーという店で妻はデセール付き昼の定食、私はサラダとシードルを頼みました。食後すぐルーアン大聖堂へ向かいます。立派な聖堂で、大きいが素朴なところがよい。大伽藍という言葉がぴったりです。その後、妻の要望で鉄工芸博物館へ。建物は何と使われなくなった教会堂です。中身はどうということもない鉄製の日用道具で私は全く興味を感じませんでした。続いて、今度は私の趣味で陶器博物館へ。ここも鉄工芸と同じく来館者がほとんどいず、係員は見学者がいると飛んで来ていろいろ説明してくれます。しかし、魅力的なものは一つもありませんでした。私は、陶器は中国の華やかで可愛いものが好きです。

   それからメイン・ストリートのジャンヌ・ダルク通りを歩いてBeau Voisin (善き隣人)通りに入ります。ここで目当ての Librairie Tel-Phil (神学・哲学書店)を訪ねました。神学といっても主に聖書関連で、むしろ社会科学・精神科学・文学・芸術関連の本が並んでいて、しかも値札がみな安い。家の近くにあったら毎日通いたい本屋です。本を三冊買って再びジャンヌ・ダルク通りへ戻り、Amitie (友情)書店へ。ここはルーアン最大の新刊書店で雑誌と一般書籍の二つの建物が合わさった大きな書店です。専門書もしっかり揃っていて、哲学・文学も充実して、とても人口11万の都市の本屋とは思えません。

   旅の最後に町のシンボルともいうべき大時計 Gros-Horlogeを見学しました。15 世紀に作られた立派な時計。これは見るべき価値があります。大時計のある通りは観光の中心で、ルーアンで唯一観光客で混雑していました。
   帰りの列車に乗るためルーアン駅へ。サン・トゥーアン教会、コルネイユとフローベールの家など見逃したところは多いが日帰り旅行としては満足しました。帰りは各駅停車で1時間半ほどでパリ着、また27番に乗って、途中サンミッシェル通りのマークス・アンド・スペンサーでスコーン、サラダなどを買ってホテルに帰りました。

Intercite

フランス国鉄の在来線特急列車アンテルシテ。フランスの電車・機関車のデザインは伝統的に無骨なものが多い。そこが気に入っています。

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ルーアン駅到着。ノンストップだと一時間ちょっとです。

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ルーアン駅前にあるジャンヌ・ダルクが幽閉されていた塔。工事中で入れませんでした。

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ルーアン美術館。地方の美術館にしては質も量も特筆に値します。玄関手前の像はノルマンディー出身でルーアンで少年時代を過ごしたニコラ・プッサン(1594ー1665)。しかし彼の画は一枚もありません。

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作者不詳の宗教美術が多いのが特徴。この執拗な遠近法には呆れました。

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ルーアン出身のジェリコー(1791ー1824)の「馬」。ドラクロアに先立つロマン派の大物。ルーヴルにある「メデューサ号」は有名。惜しくも32歳で落馬でなくなりました。やや病的なところが魅力。

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カミーユ・コロー(1796−1875)の「アヴレイの村の朝」。コローの画ではルーヴルにある「モルト・フォンテーヌの思い出」が最高傑作でしょう。

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言わずと知れたモネの「ルーアン大聖堂」。なぜこんなにぼかして描くのか疑問でしたが、大聖堂を目の当たりにしてわかりました。実際、このとおりなのです。

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ピサロの「雪のチュルリー公園」。最晩年のピサロは窓から見える街の風景を描いていました。

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ルノワールの「菊の花束」(1909)初めてパリに来て、初めてオルセーでルノワールを見たときの衝撃は忘れません。写真とはまったく違うタッチの風合い、鮮やかな色、活き活きとした肉質、この菊の画にはさらにスピード感さえ感じられます。

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シスレーの「マルリーのシュニル広場ー雪の光景」(1909)。構図、色彩ともに完璧です。

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駅前のカフェ・ノルマンディーでの昼食。手前は妻の頼んだ定食14ユーロ。向こうは私のシーザーズ・サラダ11ユーロ。冷えたシードルがびっくりの美味しさです。ルーアンは緯度が高いのでワインは出来ないそうです。

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定食に付いてきたデセールのレモンタルト。日本のタルトの三倍くらいの大きさです。レモンの味がピリッと効いて美味しかった。

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ルーアン大聖堂。モネが描いた通りです。

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最奥の内陣。精緻を極めて美しい。

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側廊の聖人たち。

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鉄工芸博物館。ゴシック式教会がそのまま博物館として使われています。

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陶器博物館の庭。ここも古い建物、丁寧に管理された庭が素晴らしい。

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ルーアンの名物大時計。15世紀末に作られ、16世紀にこの場所に設置されました。観光客が集まっていました。

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大時計の裏側。底にもみごとな彫刻が彫られています。

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ボー・ヴォアザン通りの「神学・哲学書店」。私好みの本がいっぱいありそうな本屋でした。

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神学・哲学書店の店内。安くて買いやすい。何でもあるが、軽いペーパーバックのような本は一冊もありません。また再び訪れる機会があるでしょうか。

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神学・哲学書店で買った本。上はレオン・ブロワの『貧しき女』(4ユーロ)。下の左はオットー・ランクの『ドン・ジュアンとその分身』(2ユーロ)。ランクは「人は生まれることによって傷つく」という出生外傷の理論で有名なフロイト派の精神分析学者。私はアドラーなんかよりずっと好きです。右はアルフレッド・ド・ヴィニの戯曲『チャタトン』(1ユーロ)。18歳で自殺した英国詩人が主人公。表紙の女性はヒロインのキティ・ベルを演じたマリー・ドルヴァルです。

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