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2016年7月18日 (月)

オデオン広場ふたたび(3)ルーヴルとシャン・ド・マルス

6月19日(日)
     湯を沸かしてインスタント・コーヒーを淹れ、昨日Cartonで買ったクロワッサンとパン・オ・ショコラを食べました。カイザーのクロワッサンは軽い味ですが、このCartonのクロワッサンは濃厚で深みがあります。ネットで日曜も開けている店を探して、モベール・ミューチュアルティのフランプリに行きました(後で分かったのですが、セーヌ通りのカルフールもサン・ミッシェルのモノプリも日曜営業していました)。そこで、ワインや缶詰、お菓子などを買ってホテルに戻りました。支度してルーヴルへ。当初は、妻がルーヴルに行っている間、私はどこか好きな所に行くはずでしたが、日曜で店はだいたい閉まっているし、妻が無事に戻って来るかも心配だったので、一緒に行くことにしました。

   実は、私にはルーヴルで見たいものがあって、それは17世紀のオランダ絵画、なかんずくライスダールとフランス・ハルスでした。30年以上前でしょうか、東京駅のステーション・ギャラリーで「17世紀オランダ絵画展」を見て以来好きになったのですが、確かルーヴルでも1日かけてじっくり見ているはずです。それが最近、フロマンタンの『オランダ・ベルギー絵画紀行・昔日の巨匠たち』を再読して、またかつての情熱が戻ってきました。それはまた、私の近頃の気分の反映でもあるのです。私は、間歇的に抹香臭いものが嫌いになる時期があるのですが、今がそうで、特に中世キリスト教関係に拒否反応を示すようになりました。どうも、マリアがイエスを抱いている絵や、イエスのみすぼらしく痩せた像などを見たくなくなるのです(帰国してからエミール・マールを再読してまた中世趣味が戻りつつありますが)。

    ところで、17世紀オランダ絵画といえば、(レンブラントを例外として)その徹底した非宗教性で知られています。偶像崇拝を嫌うプロテスタントの影響か、あるいはスペインからの独立を果たし、自立心に目覚めた国民の自負か、画家の視点はひたすら彼ら自身の肖像に向かいました。ライスダールはオランダの空、雲、潅木、道を、フランス・ハルスは酔っ払い、娼婦、子ども、そして集団の人々を描いたが、フロマンタンは、そこに共通してあるものは誠実さに他ならないと言っています。

   ルーヴル美術館まで歩いて向かいました。大雨の後でセーヌ川は岸辺まで水が残っています。ヨーロッパの大河は、日本の川と違って、いったん溢れるとなかなか水は引きません。増水した水の色は褐色に濁っています。いつもの観光客満載のバトー・パリジャンもバトビュスもほとんど見えず、たまに来ても客はまばらです。あまり並ばなくて済むライオン門からルーヴルに入ろうとしたのですが、何とこの入り口は閉鎖でした。仕方なく  地下のカルーセルの入り口から。セキュリティ・チェックはやや拍子抜けの軽さで心配になる程です。入館後、妻はシュリー翼、私はリシュリー翼へと別れました。2時間半後、ちょうどルーヴルの真中にあるサモトラケのニケで会うことを約束してあります。

   私は、ただちに、17世紀オランダ絵画を見にリシュリー翼2階(日本では3階)に向かうため、地下の外れにあるエレベーターを目指しました。やっと隅っこに一つだけあるエレベーターを発見、誰もいないので一人だけで乗って、二階のボタンを押しました。ところが閉まったまま押しても押してもエレベーターは動き出しません。このまま閉じ込められて餓死してしまうのかという不安が頭をよぎります。しかし、二階のボタンをよく見ると、すぐ下に en travail(工事中)という小さな紙が貼ってあります。「開く」マークのボタンを押すと、もとの地下の場所に出ることが出来ました。気をとり直して階段をひたすら駆け上がって2階に上がろうとしました。ところが2階への階段のところにロープが張ってあり、そのロープに紙が一枚巻きつけてあります。何と、北ヨーロッパの絵画は工事中で見ることが出来ない、ただしルーベンスなどの傑作はシュリー翼の2階とドゥノン翼の1階に展示してあるとのこと、これではルーヴルを端から端まで歩いて行かねばなりません。とにかくルーヴルは広い、部屋から部屋、絵画から絵画へ、人ごみの中を必死に探して、ついにシュリー翼2階のオランダ絵画のコーナーへ着きました。ところが、ここは16世紀までの北ヨーロッパ・オランダ絵画で、今の気分ではメムリンクなど宗教絵画を見る気分になりません。

    下に降りて、ドゥノン翼へ。ここは、イタリア・スペイン・19世紀フランス絵画が集結する部屋部屋が一本の大通りのように貫いています。ルーヴルでもっとも人気あるところで、モナリザもここに展示されています。椅子に座っている係りの女性に聞くと、どうもこの奥のフランス絵画のさらに奥らしい。行ってみると、行き止まりで、その辺をくまなく探したが17世紀オランダ絵画はありません。疲れ切って、ベンチに座ってイタリア絵画をぼんやり見ていました。待ち合わせの時間が迫って来たので、シュリー翼1階踊り場のサモトラケのニケの展示場所へ。妻は30分も前から待っていたそうです。外へ出たが、日曜ゆえ、付近には開いている店はなく、そのまま朝来た道をホテルに帰ることにしました。

   帰りにカルフールでサンテミリオンのワイン、サラダ、ハムなど買ってホテルで遅い昼食、それからベッドで昼寝しました。起きてみると夕方の6時、日曜なので出かける予定もないが、私はここで、一つの提案をしました。それは、エッフェル塔の下、シャン・ド・マルスに設置されたFan Zone(サポーターの集う所) に行ってみることでした。今は自国開催のサッカーEuro2016の真っ只中、しかも今日は予選最終日、グリープ一位通過をかけてスイスとの一戦が予定されています。大スクリーンが設置されたシャン・ド・マルス(陸軍練兵場跡)はきっと盛り上がることでしょう。開催初日のルーマニア戦ではこの広大なシャン・ド・マルスが立錐の余地なく人で溢れていたのを思い出しました。

   しかし、妻は乗り気ではありません。サッカーに興味がないのと、人が集まる所はテロの危険があるからのようです。確かに、この広い矩形のシャン・ド・マルスは公園と違って柵もなく、自爆テロの格好の標的で、設置をめぐって議論も出ていました。シドニー柔道の金メダリスト、ドゥイエは「気違い沙汰だ、危険すぎる」と言い、元閣僚の国会議員ヴァレリー・ペクレス女史は「自分の子供たちには絶対に行かせない」と発言しています。だが、常に強気のフランス政府は設置を承認、今までの所は無事に経過しています。私は「きっと面白いから行ってみよう。試合は21時に始まるから、その前に帰って来れば安心だよ」と妻を説得しました。

   メトロ10番線でモット・ピケ・グルネルへ、そこで8番線に乗り換えて一つ目のエコール・ミリテール駅で降りました。すでにメトロの駅や車内にサポーターが固まって騒いでいましたが、上に上がると大変な熱気、日曜なのにカフェやレストランはすべて客で満員です。駅のすぐ前から行列が出来ていて、入り口で持ち物検査がありました。男女別に別れ、バッグは中身をすべて台の上に出し、細かいポケットも全部開けさせられます。ここでビン・缶類は没収。持参したペリエの瓶も回収箱に放り込まれました。続いてボディー・チェック。これも股間、足首、腹、背中、頭まで調べる徹底さ、時々聞こえる厳しい叱責も緊張感を高めます。しかもチェックは入場までに計4回という執拗さでした。

   広いシャン・ド・マルスの中は、まだ試合開始2時間も前なのに、人がかなり集まっています。子供の遊び場、演奏会場、飲み物売り場、軽食堂、救急医療所、銀行まであります。そしてフットサルのコートが芝生の上に何面もあって、サッカーボールやビブス(敵味方を識別するベスト)が無料で貸し出されているようです。誰でも参加できるようで、疲れるとビブスを他の人に渡しています。私の所にも回ってこないかと待っていましたが、なぜか無視されました。芝生の端に日本人と思われる家族(若夫婦と子供二人)がシートの上でお弁当を食べていました。四人ともフランスチームの青いユニフォームを着ています。話しかけようとしましたが、野次馬にすぎない自分たちが恥ずかしくてやめました。

    7時半に、エッフェル塔の方の入り口から外へ出ました。この入り口からも次々と人が入場してきます。厳しいボディー・チェックのため行列は長く続いていました。ジョニ赤のウイスキーもバッグから出されてゴミ箱に捨てられています。入り口の周辺にはEuro2016のグッズを売る店がいくつも店を開けています。地下鉄でサン・ミッシェルまで帰りました。日曜日は9時まで開けているブリニエ書店に寄ったのですが、本を漁っていると、店員が出てきて、申し訳ないが今日は15分前に閉めると言ってきました。これは絶対にテレビでフランスースイス戦を見るために違いありません。モノプリで、ビールと果物を買ってホテルへ。妻は疲れてすぐに眠りに落ちています。私はビールを飲みながらテレビでサッカーを見ていたのですが、ハーフタイム前に寝落ちしてしまいました。

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直前に続いた豪雨でセーヌ河は増水していました。右にアカデミーのドーム、奥にノートル・ダムが見えます。

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岸辺まで水が来ています。妻はギリギリまで近づいていました。

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ルーヴルのライオン門。ここから入ると並ばないで済むのですが、今日は閉鎖されていました。

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ルーヴルのオランダ絵画が工事中で見ることができなかったので、アムステルダム王立美術館のウェブサイトから傑作を二つ紹介します。ヤーコプ・ファン・ライスダールの「ヴェイク・ベイ・デュールステーデの風車」(1668)。17世紀オランダの忠実な肖像です。息詰まるほどの風景描写はドラクロワにも影響を与えています。

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フランス・ハルスの「夫婦の肖像」(1622)。卓越した技術は黄金の17世紀の中でも抜きん出ています。ライスダールが決して人間を描かず、風景ばかり描いたのと反対に、ハルスは17世紀オランダの人々の忠実なスナップショットを残しました。

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シャン・ド・マルス近くの土産物屋はすっかりEuro2016のグッズに覆われています。

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Fan Zoneの入り口は陸軍学校側とエッフェル塔側の二カ所のみ。徹底した身体検査が行われています。

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チェックは男女別に行われています。バッグの中身は入念に調べられました。

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二カ所の入り口以外はすべて閉鎖されて、どこも厳重な警備が敷かれていました。

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試合開始までまだ2時間もあるのに、もう座って待っている人もいます。

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Fan Zoneの中の売店。飲み物が持ち込めないので。ここでビールや水を買います。

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フットサルをしながら試合開始を待つ人たち。

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ホテル下のスポーツ・バー。試合中はチーズバーガーと1パイント(約550ml)ビールで16、5ユーロ(約1800円)です。

 

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