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2005年12月31日 (土)

モーパッサン『ペルル嬢』

 25歳の「私」は王さままつりの夕に知人のシャンタル氏の家に招かれます。そこには56歳になるシャンタル氏とその妻、そして二人の娘とそしてもう一人、その家の同居人のペルル嬢という中年の女性がいました。食事が済んでデザートのケーキが運ばれてきます。取り分けられたケーキの中に陶器の小さな王さまが入っていると、その人はその夜の王さまで、一人の女性を女王として指名することができます。王さまが入っていたのは「私」だったのですが、「私」は迷わずペルル嬢を指名します。彼女がどういう女性か興味があったのですが、ペルル嬢は自分が指名されると意外な風に恥ずかしそうな顔をしました。皆は大はしゃぎで彼女をからかいます。温和で物静かなペルル嬢は家族の誰にも愛されていたのです。食事の後、テーブルを離れて、喫煙室で、「私」はシャンタル氏からペルル嬢の思いがけない過去を聞き出します。41年前、シャンタル氏の家の前に赤ん坊が捨てられていました。シャンタル氏の父親はその捨て子を育てる決意をし、布にくるんであった一万フランはその子の婚礼のための支度金にとっておくことにしました。その子はクレールと名付けられましたが、気だてのよさ、分をわきまえた控えめな物腰、美しい心から、いつしかペルル(真珠)と呼ばれるようになりました。「非のうちどころのない少女だった」とシャンタル氏は語りました。「実にきれいで、けなげで、透き通るような青い目をしていた、、、でも、たっぷりの持参金がありながらどうしても結婚しようとはしなかったんだ。私は、、六年前から婚約していた従妹と結婚したが、彼女はずっと独身を通していた、、、」それを聞いて「私」はシャンタル氏の表情を見、思い切って次の質問をします。「シャンタルさん、あなたが結婚の相手になるべきではなかったのですか」「なぜ?」「あなたは従妹さんよりペルル嬢の方を愛していらしたからですよ!」そういうとシャンタル氏は海綿から水がもれるように目からどっと涙を溢れ出しました。抑えていたものが一気に外に飛び出したように彼は激しく嗚咽を始めたのです。突然のシャンタル氏の急変に家族が集まってきました。「私」はペルル嬢を部屋の隅にそっと呼んで「シャンタル氏はあなたと結婚しなかったことを後悔しています」と告げました。その途端、ペルル嬢はショールを落とし、そのまま床に倒れ込んだのです。
 『ペルル嬢』(1955岩波文庫・杉捷夫訳)はモーパッサン(1850~1893)の35歳の時の短編です。結婚には神秘的なものがあって、決して結ばれない男女というものがいるようです。あまりに近きにいるがゆえに、あるいは家庭、家族の思惑から結婚に踏み切れない人々、「冷静に」考えすぎたがゆえに後悔の辛味を生涯抱いている人もいるでしょう。それでも「いつか二人は、おしころした痛ましい苦悩の思い出に、互いに手をとりしっかり握りあうだろう」とモーパッサンは書いています。そして二人は陶酔と狂気の感覚を味わうでしょう。「ほかの人間が生涯かかって摘みとりうる以上の幸福をつかの間の戦慄のうちに恋人同士に与えるあの狂気の感覚を!」
 皆様、2005年もあと少しで過ぎようとしています。この一年、つたない私のブログを読んで下さってほんとうにありがとうございます。明るいとはいえない、そして安穏に生きることの難しい世界ではありますが、せめて皆様はご多幸な新年を迎えられることをネットの片隅で祈っております。

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