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2005年9月26日 (月)

W.B. ギブソン『奇跡と大魔法』

 1555年にフランス王アンリ二世の妃カトリーヌは学者・医師・予言者として名高いノストラダムスを宮廷に呼んで、三人の息子フランシス、アンリ、シャルルの行く末を詳しく知りたいと望みました。ノストラダムスは特別な一室を用意し、床に神秘的な円を描き、香をたいて、王妃に椅子の上に斜めに置かれた鏡をのぞいてみるように、と言いました。王妃がのぞくと、鏡には三人の王子が順々に王位に就く様子が写ったのです。未来の王子たちは当然年をとっていましたが、明らかに王子とわかる姿で玉座に座っていたのです。この予言は的中して、長生きした王妃はフランシス二世、シャルル四世、そしてアンリ三世の治世を目の当たりにして世を去りました。この鏡の秘密は百年後にフランスの科学者に解き明かされました。斜めに置かれた鏡は天井に隠されたもう一つの鏡を反射し、また天井の鏡は壁の裏側に置かれた玉座に座った替え玉の姿を映し出したのです。
 W.B. ギブソン『奇跡と大魔法』(1974 金沢文庫・高木重朗訳)は歴史上に現れた魔術・奇術についての興味深い解説です。映画『十戒』の中でファラオの宮廷でモーゼが白い杖を床に投げると蛇になって、魔術師の杖の黒い蛇を追い払う場面がありますが、ギブソンは次のように説明しています。この杖ははじめから蛇なので、エジプトに棲息するナジェハジャというコブラの一種は頭の下を圧迫されると麻痺状態で硬直して杖のようになる、おそらく魔術師たちはこの蛇に類似した杖を常に持ち歩き、魔法を見せる時に、麻痺した蛇に変えたのであろう、と。
 英国がインドを支配しつつあった頃から、インドは神秘なものの発祥地として広く西洋の人間の興味をかきたてていました。事実、インド人は奇術の天才で、次々とヨーロッパ人を魅了する不思議な技を繰り出してきたのです。その中でまぎれもなく最高の見せ物はバラモンの綱技です。バラモンの行者が長い綱の端を空中に投げると、綱はするすると天に登っていきます。見物人が空を仰いで見守る中を一人の少年がよじ登って行き、やがてその姿はかき消え、静寂の中、行者の一声で綱だけが落ちてきて、少年の姿は跡形もありません。この仕掛けは次のように説明されます。この見せ物の理想的な場所と時は高さ20〜30フィートに濃いもやが出る夕暮れの熱帯の谷間で、すぐ近くに太い樹か高い建物がなければなりません。行者は夕陽を背にして立ち、先に鈎のついた綱を投げ上げ、上空に張られた鉄線に引っ掛けます。少年がそれをよじ登り、霧にまぎれて鉄線を伝って姿を隠し、その後行者は綱をはじくように振って地面に落とすというわけです。

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