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2005年7月28日 (木)

クラウス・シュライナー『マリア 処女・母・女主人』

 天使ガブリエルがいきなりマリアの部屋を訪れて、救世主の母に選ばれたと告げたとき、彼女は驚かなかったでしょうか。驚いたに違いない、と中世の人々は考えました。彼らはマリアの立場に立って、まるで自分がマリアであるかのように思案したのです。そうするとルカ伝の簡単な記述は彼らには物足りません。「男を知らない私がなぜ子供を生めるのでしょうか」と聖書のマリアは質問します。当然です。天使はマリアの不安を打ち消しますが、そう簡単に納得できる問題ではありません。ある書物では天使が三通の手紙(父、子、精霊の)と三人の処女(賢明、貞潔、謙譲の)を連れてマリアのもとを訪れた、と記しています。決心のつかないマリアは三通目の手紙と三人目の処女の言葉を聞いてやっと納得します。謙譲の処女はマリアに「危機に瀕した世界はあなたの決断を待っている」と告げたのでした。
 クラウス・シュライナーはマリア論と中世史の専門家で、その著書『マリア 処女・母・女主人』(法政大学出版局)は、聖書の中の脇役でしかないマリアが中世以降なぜかくも重要な地位を占めるに至ったかを論じています。
 マリアは美人だったろうか、やさしい女性だったろうか、どんな着物をきて休みの日にはどこに買いに行ったのだろうか、が中世の人々の関心の的でした。彼らはマリアの中に愛し子を失った悲運な女性を見ていたのです。以下は中世の人々にとって事実以上に真実なことでしょう。・・・マリアの母アンナは三度結婚した女性だった。マリアは子供の頃から信心深く、いつも教会堂の掃除や自分のできる精一杯のことをしていた。13歳の時40歳半ばのヨセフと婚約した。ほどなく天使が現れてマリアが聖母に選ばれたことを告げた。ヨセフはこの事実を受け入れ、マリアとともに神殿に鳩のつがいを供えた。鳩を供えることは貧しい階級のしるしである。そしてイエスは貧しい処女の胎内から馬小屋の中に生まれた。粗末な布にくるまれて飼葉桶に寝かされ、わずかな乳で育てられ、飾らぬ言葉で率直な真理を告げ、不名誉な責めを負って十字架上で死に、見知らぬ墓に葬られた、、。
 私はマリアの名を聞くと、マンテーニャの「聖母の死」を思い出します。エフエニオ・ドールスが、もしプラド美術館が火災にあって、ただ一点の絵画しか救い出せないとしたら必ずやこの作品が選ばれるだろう、と書いた板張りの小さな絵なのですが、、、。

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